- 理想郷 - 2013.4.8 僕が房総半島に行ってきたと言うと、必然的に「釣り?」と聞かれる。 今回は釣りが目的ではなく、勝浦にある鵜原という所を尋ねてみたかった。 この鵜原と言うところは『理想郷』と呼ばれ、胡散臭い新興宗教がらみかと思いきやそれはまったくの勘違い。 大正時代に後藤杉久と言う偉い人が、この辺りを一大リゾート地にしようとしたことから『理想郷』と呼ばれたそうだ。 結局は関東大震災など色々あってリゾート開発は頓挫してしまったのか、そのお陰で昔と変わらぬ佇まいが残っている。 車を降り、その美しい砂浜に降り立つと、濃い潮の香りがしてきた。 多少風が有るので、数人のサーファー達が波乗りを楽しんでいる。 この辺りはリアス式海岸になっていて、太平洋からの漂流物があまり流れ着きにくいのかとにかく砂浜は綺麗だった。 その近くの静かでこじんまりとした漁港に車で移動すると、港の水は透明度が高いのかエメラルド色をしていた。 足元を除くと、何やら青っぽい小魚が物凄いスピードで泳いでいた。 イワシだ! まるで水族館で見るような感じでイワシの群れが狭い港内を泳いでいた。 これは青物か何かが入り込んでいるに違いない。 そして案の定堤防の先端にいたおっちゃんが、大きな鯵を釣りあげていた。 時たまイワシも混じり、アジ、イワシ、アジ、イワシと交互に釣れて、たまにドヤ顔でこっちを見ていた。 あれ?左奥に更に船着き場が見えるぞ しっかりと僕も小さいルアーを投げてみたが、足元からウツボが出てきただけだった。 まあ今回は釣りが目的では無いので、色々と散策をしてみる。 トンネルをくぐると隣にも漁港が有り、ここもこじんまりとした漁港だった。 この辺りは山を削ったトンネル、つまり隧道が至る所にある。 漁港の脇に小道が有り、興味深く進んでいくと、そこにも人の背丈くらいのトンネルが口をあけていた。 この隧道の先には一体何が有るのか、これはもう奥に進むしかないと隧道を進む。 と言うか、実は最初に訪れた漁港の奥に、もう一つ崖の奥に漁港を見つけたのだ。 漁港と言うよりも船着き場という感じだろうか、どうしてもその場所を見てみたかったのだ。 この隧道を抜ければその小さな船着き場に行けると思い、腰を曲げて長いトンネルを進む。 しかし、隧道を抜けるとそこは最初に訪れたサーファー達がいる砂浜へと出たのだ。 一瞬、きつねに抓まれた感じだったが、この砂浜と漁港は山を挟んで隣接した位置関係だった。 その砂浜とは逆、つまり隧道を折り返すような感じで小道が続いていたのでさらに奥へ進んでいく。 進めど目的の小さな船着き場は見つからず、またまた違う隧道を潜ると岬に登る階段が現れてきた。 この先理想郷と書かれているので、成行きに任せ階段を登っていく。 階段を登り、小高い岬の上に出ると展望が開けた。 リアス式による美しく荒々しい鵜原の海が一望できる。 おお、これが理想郷前景か!と感嘆するが、お目当ての船着き場が何処にあるのかここからでは確認できない。 足元は断崖絶壁で、おしりの辺りがキュっとなってしまう。 ちなみに、三島由紀夫は少年時代に鵜原を訪れ、その美しさを忘れられず大人になって『岬にて』と言う鵜原が舞台の小説を書いたそうだ。 ここがリゾート地になってしまったらもしかしたらその小説も生まれなかったのかもしれない。 結局、ひと山登った疲労と空腹に耐えかね、小さな船着き場の散策は諦めることにした。 車を停めていた駐車スペースの手前にも気になる隧道があったのだが、今思うとそこがあの船着き場に通じる道だったのではと思う。 小道やトンネルが入り組んでいる為、まるで不思議の国のアリスの様な感じだが、やはり空腹には勝てず鵜原を後にしたのだった。 機会が有れば、また何時か尋ねてみようと思う。 もどる |