- ツバメが舞う - 2004.9.3 バックパックをよっこらしょと担ぐ。 さすがに6食分の食料が入っているので肩にずしりと重い。 沢沿いで一呼吸入れた我々は重い腰を上げ、目的地を目指してさらに高度を上げる。 とは言っても、何なんだこの沢は。 まるで先が見えてこない。 はるか遠くに岩壁があるのだがなかなか近づいてこないぞ。 体力ばかりが消耗する。 全く冗談も出てこないぜ。 スタート時の明神岳 空は見事な快晴だが、山の天気は気まぐれなので、いつ天候が変わってもおかしくない。 標高は2000メーター。 後1000メーター弱あるかと思うと、足が進まない。 それでも足を前に出さないと、目的地には着かないぞ。 ああ苦しいし、しんどい。 いつの間にか風景全体が変わっていた。 足元ばかり見ていたせいか、まるで紙芝居をめくった様に風景が差し替えられていたのだ。 「あれはもしや?」と、ふと足を止めた。 右手上部に、とがった物があった。 こんなに間近で見たことが無かったから、最初それが何なのかわからなかった。 しかしそれが槍ヶ岳だと確信できた。 道標に槍ヶ岳1キロとあったのだ。 ここまで登って来て約20数キロ。 こいつが見えた時は、今までの疲労が一気に吹き飛んだ。 感動と共にラストスパートをかけた。 とにかく早く天辺に着きたかった。 それにしてもここは静かなところだ。 沢を流れる川の音も消えたし、風も全く吹いていない。 音がするのは遠くに聞こえる人間の声と、飛行機の音だけだ。 後は無音。 たまに上空をツバメが飛んでいる。 なんと言うツバメかわからないが、多分ツバメの仲間だろう。 余分な荷物をヒュッテに預けいよいよ穂先にアタック開始だ。 やはり幾分ガスが出始めている。 途中に「小槍」があり、歌にも「アルプス1万尺、小槍の上で...」とあるが、こんな上でダンスなんか出来るか!と思った。 ガイドでは難所とあったが、剱に比べればどうってこと無い所だ。 楽勝。 いよいよ最後のハシゴに手を掛け、頂上に上がる。 エックスランダーは3030メートルを表示し、とうとう槍ヶ岳の頂上に立った。 この日だけは天気が良かったので、ツイていたのだろうな。 もちろん360度のパノラマだ。 常念岳が見える それにしても何と狭い頂上なのだろう。 畳で言うと10畳ぐらいか?おしくらまんじゅうで下にでも落ちたら一巻の終わりだぞ。 それを笑うかのようにツバメは自由に空を舞っている。 少し寒くなってきたのでヒュッテに戻ろう。 向こう側は大キレットだ 一夜あけたら予報どおり雲の中だ。 予定を大幅に変えるしかなかった。 雲に隠れる笠ヶ岳 下山終了の新穂高温泉でバスに乗り込んだときは、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。 こんな時にも稜線を歩いている登山者が居るのだろう。 ツバメも飛べないだろうな。 何はともあれ無事に目的を果たせたから良しとするか。 本当は引いた絵も欲しかったのだが。 それにしても3泊4日のコースを2泊3日にし、それをさらに1泊2日のコースにし、1日目でピークに達したのだ。 まあ、どうでもいいことだけどね...