- 独標 -


2005.3.20〜21


季節は春だが、3千メーター級の山々は、まだ沢山の雪をかぶっている。
アプローチはロープウェイを使い、一気に標高は2150メーターへ。
 
最初に目に飛び込んできたものは笠ヶ岳だ。
雪をまとった山容は、また夏と違った趣が有り、思わず歓声を上げてしまう。



笠ヶ岳


今回目指すのは、西穂高岳の独標(ドッピョウ)という2700メーターの所だ。
我々は今回もまた天気に恵まれ、その目標を確認することが出来た。



稜線の端に山荘が見える


西穂高の稜線上には、ピラミッドピーク、独標といくつかのピークがある。
最初のピークが独標で、ここから岩稜地帯の険しく、角度のきついルートが立ちはだかる。
夏でも頂上付近は、悪天候だとかなりの危険地帯になる。

しかし、あまりにも良い天候なので、そのむき出した稜線からは、そのような想像は最初の時点では出来なかった。
きれいにトレースされた山道を、山荘目指し登る。シラビソの枝には雪がこんもりと積もっている。
 







最初に目指す西穂山荘は、スタート時から肉眼でも良く見えていたので、2時間ぐらいで到着した。
早朝からの出発だったらいきなり独標に行きたかったが、昼近くからのスタートだったので、独標アタックは2日目にする。

山荘の前には、テントがいくつか張られている。山荘の中に入ると、かなりの登山客で賑わっていた。
寝床も確保できないくらいで、どうしたものかと少し参っていたが、何とか確保してもらった。
ぎゅうぎゅう詰めの廊下に荷物を置き、カメラと三脚だけ持って外へ出る。
1日目は天気が良かったので、夕焼けの写真を撮ろうと思った。
登っている時は汗だくであったが、日が暮れるに連れ気温も下がり寒くなる。

上高地を挟み手前に見える山が、射光を浴び実に良い感じだった。



霞沢岳


夕飯前の時間。
案の定、いい感じの夕焼けが出そうだ。
まさにゴールデンタイム。

他の人は山荘でくつろいでいるが、こうして寒い中外に出ていると、良い事があるのだ。
そして仲間が、西穂の山頂が見えると言うのでそちらに行って見た。

少し丘を登らなくては成らないが、息を切らし少し登ってみる。
そしてタイミング良く、太陽が沈んでいく。
その前にもう少し上へ行こう。
三脚を担ぎ、急斜面を登る。
冷たい冷気が肺に入り、呼吸が乱れる。
呼吸を整え、辺りを見る。





神々の住む世界、と言ったら少し大げさだろうか。
この太陽に感謝せざる得ない、素晴らしい夕日だ。
そして後ろを振り返り、山頂を眺める。





言葉が出ない。
これで十分だ。もう他に望むものは無い。
一瞬の日の光がもたらす芸術だ。


日が暮れてかなり気温が下がってきたので、山荘に戻る。

山荘には沢山の人で込み合っていて、夕食も2回に分かれての食事。
大体の山荘には、時間を潰す本などが置かれているのだが、この山荘にはかなりの本が置かれていた。
本以外にも、オセロやトランプみたいなゲーム類もいくつかあった。

整理された本棚には、小説や雑誌が沢山ある。
定番は何といってもシーナさんだろう。絶対ある。
(前にブラックジャックがあって読んでいたら、なかなか止まらなかった時があった)

適当に雑誌を取りめくる。
結構古い記事だが、面白い。その時代に何が流行って、何があったのかが分かる。
消灯時間まで時間があるので、誰も居なくなった食堂で読書をする。



ストーブも近くにあって暖かい


ちなみに、山小屋は風呂なんてものなんかは無い。
冬だと水も凍っているから、水も無いのだ。
なので、水はとても貴重になる。
天から降ってくる雨水は貴重な飲み水なのだ。


それと山小屋では先に眠ったもの勝ちなので、多少のアルコールを飲んだほうが良く眠れる。



多少曇っているが、朝日が綺麗だ


日の出前に出発。
早い人で、もう暗いうちから登っている人もいる。

しかし、寒冷前線が過ぎ去ったせいか、昨日ほど天気は良くない。
空は灰色の雲で覆われ、稜線上に強風が吹きつける。



ブリザード状態


強風の為、地面に置いたザックも風で飛ばされそうだ。
そして、いよいよ独標まで目指す。
ここからは、冬場は登る人も少ないだろう。



それにしても結構きつそうな登り坂だ


強風と共に運ばれる灰色の雲。
トレースされているルートをなぞる様に登っていく。





冷たい冷気のおかげで、顔はひりひりと痛くなってくる。
それと、高度を上げるたびに、コースを外れた所ではアイスバーンに成っている。
行ける所まで行こう。



背後には乗鞍岳が見える


急な斜面は、少し外れてしまうと、下に滑り落ちてしまう危険性がある。
しっかりアイゼンを雪に打ち付ける。

頂上は見えているのだが、なかなか近づいてこない。
寒さと、突風と疲れで、モチベーションが奪われていく。
しかし少しでも気を緩めてはいけない場所に立たされている。

そして独標の目の前にまで来た。





だが、ここで断念せざるしかなかった。
天候の悪化に加え、この装備ではあまりにも無謀すぎるのだ。
この独標に上がれば、見える景色も、世界も変わってくるのだが。
他の人は、ピッケルを持ち、それに加えザイルを使用しているパーティーもいる。
目標はもう目の前なのだが。


しかし驚いたのが、その独標を越え、その先のピラミッドピーク、そして山頂を目指す人がいるのが見えた。
我々はここまで来ることが精一杯であった。
いつかは挑戦したいピークのうちの一つだ。

いい経験をした。
断念する事も、初めから予定の内に入っていた。


やはり山を舐めてはいけないと言う事だ。



下山中に見た西穂高岳は、最初に見た時よりも実に大きく見えた。






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