- ジャンダルム 後編(奥穂高) - 2007.8.25 ジャンダルム −フランス語で憲兵。転じて前衛峰の意− 疲れていたので、すぐに眠れるのかと思ったのだが、何だかあまり良くは眠れなかった。
眠い目を擦り起きると、もう日が登る頃だった。 有難いことに、予報どおり晴天が続いた。 朝は少し寒く、シャツの上にジャケットを着込んで、再度奥穂高山頂を目指す。 2日目は、この奥穂高を越えて、いよいよ南側のジャングルダムや西穂高を目指す。 この西穂高までのルートは、北アルプスの中でもかなり危険なルートだ。 奥穂高山頂から 見る見る内に日が昇り、北側の山脈も徐々に明るくなっていく。 奥穂高の山頂から、西穂高の山頂までは、近そうで意外と遠い。 直線距離で言うとそうでもないが、岩稜のアップダウンの激しい危険な箇所だ、普通に歩くよりもスローペースなのだ。 馬の背とジャンダルム 目の前に立ちはだかるジャンダルムは、豪壮無比の如く立ちはだかっている。 しかし、その前に馬の背を通過しなければならない。 とにかくこういった難所は、3点確保が基本だ。 それに気をつけなければならないのが、置石や浮石だ。 掴んだ岩が、グラっと動いてしまえば、バランスを崩してしまう。 常に細心の注意を払わなければならない。 キレットの場合もそうだったけれど、大体の場所は軽くクリアできる。 が、これはちょっとヤバイなと言う箇所が、やはりこのルートにもある。 言ってしまえば一般ルートでは無いわけで、全ては自己責任という事になる。 さすがにこのルートはあまり登山者がいなかったので、有難かった。 細い尾根をすれ違うのも大変だからだ。 ジャンダルム 高所恐怖症の人はやめた方が良いが、やはり壁を這いつくばって登ったり降りたりすることは楽しい。 膝を曲げ、手を伸ばし、よいしょ!と一段ずつ岩の登っていく感じがたまらない。 ゆっくりだが、確実に前へ進んでいる。 登山用語にTraverse(トラバース)と言う言葉があるが、何ともカッコが良い言葉だ。 我々は岩稜をトラバースしていく。 ジャンダルムへ登頂するには、その裏側から登るのが容易である。 しかし、我々はここを通過する事にした。 ジャンダルムと槍ヶ岳を捉えるだけでも十分だったからだ。 槍ヶ岳とジャンダルム このジャンダルムを越してしまえば、あとは楽かなと正直思った。 しかし、考えが浅はかというか、実はこれからが本当の難所であった。 ガレ場が続く この先、天狗の頭、赤岩岳、西穂高、ピラミッドピークと続くが、とにかく岩場地帯を歩く。 しかも、西穂高が見えているのだが、これがなかなかたどり着かない。 一つピークを越えると、今度はまた下まで落ち込んで、それでまたピークを登る感じできりが無いと言ったところだ。 西穂高を目指す 一体幾つピークを越せば良いのか。 我々は岩肌をガシガシと昇降していく。 笠が岳も綺麗だ 直線距離にしたら大した長さでは無いだろうが、アップダウンやら岩場を選びながらのルートだから時間が掛かるのだ。 多分直線で3、40分くらいの距離を、6時間は掛けているだろう。 それに頭上には、夏の太陽が体に矢でも刺すように照り付ける。 それでも、まだ風が強くないのは有難いが。 コースの中間ぐらいになってくると、西穂高方面からいくつかのパーティーが登ってくる。 ここを登っていくのもなかなかツワモノである。 もちろん我々の後ろにも、人がいるわけだから落石は特に注意したい。 たまに「落石!」と声が聞こえるが、中にはヘルメットを被っている方も何人かいた。 途中で何度かザックを降ろし、腰を下ろして休む。 水や食料が幾分減っているから、次第に軽くなっては来る。 水も熱中症にならぬようこまめに飲むようにしている。 相棒も体力が消耗してきたらしいが、僕の方も足が痛くなってきた。 ここは一気に西穂高山荘まで駆け込みたいが、本当にこれでもかとピークが聳えている。 最後は、さすがにもう腹立たしくなってきて、まだかよ!と弱音を吐いてしまうくらいだ。 それでやっと西穂高山頂にたどり着く。 ここまで来る頃には、霧が出始めていて、槍ヶ岳や奥穂高は霧の中だった。 霧ならともかく、雨の中をあの難所ルートを越えるのは不可能だったろう。 ともかく、無事たどりついて少し安堵した。 西穂高周辺には、登山客が目立っていた。 割と登りやすいのだろうが、この暑さで結構急斜面だから、登るのも一苦労だろう。 そんな中、我々は黙々と下山するのだ。 西穂高を振り返る 西穂高は、前に冬山で来たことがあるがその時は吹雪の為、西穂高独標を目前にして登山を断念したのだった。 しかし、今回は夏山という事もあり、下山途中でその独標を通過した。 そして西穂高山荘を背にして、あとは下山有るのみで、我々は山を後にした。 正直、途中でいつの間にかルートを間違ってしまっていたから、少し危険な行動もあった。 その全ては自己責任なのだ。 メニューへもどる |