- 黒戸尾根(甲斐駒ケ岳) - 2010.8.6〜7 最初の計画では、中央アルプスを縦走するはずだった。 しかし、梅雨時期の大雨の影響で、そのルートが崖崩れに遭い通行止めになってしまったのだった。 頭の中が中央アルプスしか無かったので、これは非常に悔しかった。 だってそうだろう、例えば今日は絶対カレーを食べるのだ!と思っていたら、ハヤシライスだったら意気消沈してしまうだろう。 とにかく頭を切り替え、目標を南アルプスにした。 駒ケ岳神社から入山する黒戸尾根を通るルートで、甲斐駒ケ岳を目指す。 甲斐駒ケ岳は2度目だが、前回は山頂でガスが発生してしまい、何も見えないで下山したのだった。 今回は、その真裏から登るルートだ。 黒戸尾根ルートは、日本三大急登と呼ばれ、その標高差は2367mと、富士山を5合目から登るよりちょっと長い位。 まあ自分達は、その途中にある7丈第一小屋に泊まるので、標高差はそれ程でもないが。 それにしても相棒との登山は久々である。 えーと、2年ぶりか?お互いに生活環境も変わり(相棒の方はガラっと変わった)互いの近況を話しながら登る。 夜行で来たので、登山開始は早朝だ。 駒ケ岳神社を通り抜け、吊り橋を渡れば登山道がある。 朝の内は雨が降っていたが、これは一時的な通り雨で、青空が回復してきた。 鬱蒼とした森の中を登っていくが、南アルプスらしくとにかく湿気が凄い。 だらだらと汗が滴り落ち、水分が奪われているのがわかる。 山に関しては、水だけは確保しないと水場に水が来てないなど後で辛くなることあるので、多量の水を持ってく。 ザックを重くしているその飲料水が、どんどん無くなってくる。 水を飲めば、またそれが汗になり、また水を飲むといった感じで、とにかく多量の汗をかきながら登る。 途中、ハチなどの虫がやたら着いてくる。 小さいものならまだいいが、結構大きなハチは最初はびびる。 おい、俺がいったい何をしたと言うんだ!?とハチに言いたくなるが、本当に執拗にくっついてくる。 黒い物が敵だと思っているのか、相棒のザックや髪の毛にまで止まる有様。 子供の頃に、小さいハチを潰したことがあり、死んだと思いそのハチを手に乗せたら、ブチっと手のひらを刺された記憶がある。 もちろん刺されれば痛いのだが、ハチは最後の力を振り絞り針を刺したのだろうと思うと、小さくても侮れないのだなと思った。 相棒は結構平気な顔して登っているが、どうも3:1の割合でハチは僕の周りを旋回している。 相棒が、血液型がO型の人間が刺されやすいと言っているが、本当なのだろうか? でも、殆ど眠って無いから(夜行電車の中では熟睡は無理)、ハチ攻撃は眠気覚ましにはなるのだ。 やっと、汗ダラダラ&ハチぶんぶんエリアをやりきると、やっと何かの山脈が見えだしたが、日が高くなるにつれガスも出てくる。 鎖場を越え少し標高を下げると、五合目小屋跡に辿り着き、ここで食事を摂る。 駒ケ岳山頂らしきものが見えるが、山頂はその奥だ。 甲斐駒ケ岳の山頂は、花崗岩の白砂で色が白いのだ。 ランチを摂っていると、同じように一人の若者が来て重そうなザックを下ろす。 話をすると、彼も同じように甲斐駒ケ岳を目指しているが、なんと家から歩いて来たとのこと。 一瞬、訳が分からなかったが、彼は地元の高校生で家が麓にあるのだとか。 駒ケ岳は2度目で、食糧とテントさえあれば、十分遊べると言った感じだった。 自分達の高校2年生の夏休みと比べたら、なんとしっかりしているのだろうと思ってしまった。 その面影がちょっと尾崎豊に似ていたので、勝手にユタカクンと名付けた。 ユタカクン曰く、後は階段をやり過ごせば、七丈小屋は後少しとのことだ。 通り過ぎてしまえばそうでもないけど、やはり引っ切り無しに階段が連続するのは正直シンドイ。 後少し、と言っていたけど、意外と長いじゃんと思っていたら、木の隙間から青い屋根が見えた。 七丈小屋 午後一時、とりあえず今日の登山は終了。 冷たい水が流しっぱなしになっていて、ここで思う存分喉を潤した。 そして、頭から水をかぶり体を冷たい濡れタオルで拭いたら、これがまた気分爽快。 後は、時折差す夏の日差しを受けながら、眠気を我慢し椅子に座って本を読んで夕方まで過ごす。 ここでガバっと眠れたらさぞ天国かと思ったが、絶対に寝てはならない。 どうしてかと言うと、夜に眠れなくなってしまうからだ。 夜、眠れないと言うことは、これは非常によろしくない。 なぜよろしくないかと言うと、他の人のグウグウと気持ちよく鼾を掻くのを聞いているのは、何とも癪ではないか。 深夜テレビでも見られれば良いけど、ここは標高2000メーターの山小屋で、しかも明日も登山を続けるからだ。 と言うことで、何だかんだ言いながら夕方になり、少々雨もぱらついて来た。 この小屋に泊まる登山客は、それ程居なかった。 反対側の北沢峠から登る方が楽なので、案の定次の日はその登ってくる人達とすれ違いが大変だった。 山の消灯は早く、18時には眠る準備に入る。 夏とは言え夜は寒く、部屋の中はストーブがあり、少し暑い位だった。 で、寝袋を持ってこなかった僕は、貸出布団(1000円する)を借りず、そのまま雑魚寝をすることにした。 寝袋を持ってこなかったと言うか、どう探しても家には寝袋が無かったのだ。 引っ越しをした時に無くしたのか、いや5年前の屋久島で無くしたのか、はたまた避難小屋を利用しようとした時の谷川岳か? とにかく、どう探しても見つからず、キツネにつままれた感じだった。 まあ結果的には、避難小屋利用の中央アルプスがおじゃんになったのは良かったと言える。 それで、布団も借りずに最初は暑いくらいで良い気分で寝ていたが、やはり深夜に目が覚めるとぶるっと肌寒い。 一応フリースを着てはいるが、人間って布団が恋しくなるものなのだなと、この時はつくづく思った。 余ほど相棒から布団を奪ってやろうと思ったが、ここは「布団なんて要らないぜ」と強がってしまった意地みたいなものがある。 真っ暗な部屋の中から、グウグウと気持ちよさそうな鼾が聞こえる。 結局眠れず、仕方なく外の(意外と綺麗な)便所へ行く。 究極の選択。 蒸し暑い熱帯夜か、それとも肌寒い夜が良いか。 いずれにして、体が疲れていれば眠れるもんである。 次の日は、眼下に雲海が広がっていて、風もなく登山日和。 山頂は、ここから一時間弱登ったところにある。 勾配がきつくこれは朝から心臓破りであるが、左手に鳳凰三山や富士山、後ろには八ヶ岳の壮観が広がっているので苦では無い。 と言うか、これこそ登山の醍醐味ではなかろうか。 山頂にはどんな景色が待っているか、向こう側を早く見たいのだ。 後少しで山頂だ テント場からの登山者達と、徐々に日が昇っていく静寂で雄大な景色を味わいながら、山頂を目指す。 息も上がっていくが、もう山頂が見えているので、気持ちが高ぶる。 このエキサイティングな心地よい高揚感もまたたまらない。 甲斐駒ケ岳山頂 北岳 そして甲斐駒ケ岳の山頂。 南側は北岳、鳳凰三山、仙丈ケ岳、富士山、右手に中央アルプス。 仙丈ケ岳 時計を見ると、まだ朝の7時を回ったところ。 風もなく穏やかで、こう言う時は本当に山に来てよかったと思う。 先行者が3人程いて、何やら叫んでいた。 近く寄ってみると、ライチョウを親子が居た。 これも非常にラッキーで、先行者たちに便乗し、僕もカメラを後ろから構えた。 「だるまさんがころんだ」状態で、少しずつライチョウに近づいていく。 ライチョウは人間に慣れていると言うよりも、あまり人間を見たことがないのか、結構な距離まで近寄ることができた。 しかもユタカクンは、望遠レンズを構えていたので、満足の行く絵が撮れたのではなかろうか。 ライチョウ 黒戸尾根を使い、七丈小屋で泊まる利点は、山頂までのアプローチが短いと言うこと。 だから、山頂が北沢峠から来る登山客で満員御礼になる前に、思う存分堪能できるのだ。 雲海に八ヶ岳 晴れている時と、霧が出ている時とでは、印象がまるで違う。 富士山、南アルプス、中央アルプス、八ヶ岳や秩父の山々は雲が掛っていないが、北アルプスだけは雲に覆われていた。 夜行の登山客のその殆どが北アルプスに向かったのだと思うが、多分ガスで何も見えないだろう。 まあ、自然相手だからそれも仕方ないと思うのだが、そう思うとやはり晴れている(ガスが無い)と言うことは非常に有難かった。 マリシテンを見ながら下山 下山はサクサクと降る。 徐々に日が昇るにつれ、ガスも少しずつ上がってきていた。 どんどん降りるのだ。 北沢峠方面から登ってくる登山者とのすれ違いも多くなってくる。 こういう場合は、登ってくる人が優先なので、降る方は立ち止まらなくてはならない。 「後、どれくらで頂上ですか?」 「山頂はどうでしたか?」 の声に、「後少しですよ、頑張ってください」とか「とても晴れていて良かったですよぉ」なんて声を掛けてあげると相手も元気になる。 でも、これは降りる側と登る側ではまるっきり意識レベルが違うから、必ずしも「後少し」などと言うのはちょっと語弊があるのかもしれない。 方や山頂を満喫して、後は降るだけの余裕の下山者。 もう一方は、心臓バクバクで息を切らし、しかも山頂に着いたらガスだらけかもという、ちょっと焦燥感さえある登りの人。 降っている時に、息を切らして登ってきている沢山の人達を見ると、こりゃ登るのは大変だなあと同情さえしてしまう。 それくらい下りに関してはサラサラっと降ることができた。 登りだった黒戸尾根は、緩やかな半面やたらと長い。 下りの仙水峠を通るルートは、角度的には急だがその分短いコースだ。 駒津峰からの甲斐駒ケ岳とマリシテン ガスが立ち込めたり取れたりと山の天気は変わりやすい。 岩魚は自然のバロメーター 最後に天然水をゴクゴクとたらふく味わう。 夏の日本アルプス。 気持ちが良いところだな。 メニューへもどる |